The politics of cross-border deals today
日本を焦点に


エグゼクティブサマリー
日本の対内直接投資へのアプローチは、経済安全保障とグローバル競争力の交差点によって特徴づけられる新たな局面に入りつつある。これは、日本の規制や地政学的な動向を長年追ってきた政府関係者にとっては、決して驚くべき変化ではない。
高市政権は、特に経済安全保障推進法および外為法(外国為替及び外国貿易法)の改正を軸として改革を加速しており、その過程で日本の政策関係者の声は、これまでになく明確かつ緊張感を帯びたものとなっている。2025年に実施した今回の政策・政治オピニオンリーダー調査では、安全保障を中心に据えた審査体制の強化への圧倒的支持が示された。85%超が「経済政策は国家安全保障と整合すべき」と回答し、80%超が、防衛・先端技術・重要インフラ関連分野における対内直接投資審査の一層の厳格化を求めている。一方で日本は、イノベーションと成長を促す質の高い外国投資の誘致を重視し続けている。この「保護」と「開放」の二重の使命こそが、2025年以降の日本の投資環境を形作るといえる。
本レポートでは、規制改革、地政学的動向、政策ステークホルダーの意識がどのように重なり合い、日本の取引承認プロセスを再構築していくのかを整理し、変化する環境を進むうえでの実践的示唆を示す。
政治的背景:経済安全保障を政策の中核に据える政権
高市政権は、経済安全保障を国家政策の中核に据えている。日本初となる経済安全保障推進法の実現から、先端技術への外国アクセス管理の強化まで、同首相の歩みは、日本の対内直接投資審査体制を強化するための長期的な政治的コミットメントを示している。政府の目的は、広範な保護主義ではない。むしろ日本は、低リスク分野での要件緩和と、高リスク分野での厳格化を組み合わせた「リスクベースの精緻化」へ舵を切っている。特に注目すべきは、2026年に予定される関連法制改正だ。想定されるポイントは次の通り:
リスクに応じた審査の重点化:低リスクのIT・サービス事業に対する事前届出要件を緩和する一方、防衛、サイバーセキュリティー、先端電子機器、半導体サプライチェーン領域での規制を強化。
抜け穴の封じ込め:外国政府の関与を隠しうる多段階・間接的な買収に対応するための制度整備。
省庁横断の連携強化:情報の一元化と予測可能性向上のため、より中央集権的な審査メカニズムの構築を検討。
今後の展望
日本が2026年以降も規制を洗練させていく中、その方向性は後退ではなく、「戦略的に対象を選別するアプローチ」へと向かっている。政策立案者は、対内投資がイノベーションや競争力、生産性向上に不可欠であると認識しており、開放性を維持しつつ慎重さを高める方向で制度が進化していくと見られる。
調査のハイライト
より厳格な対内直接投資審査への強い支持:84%が「より厳しくすべき」と回答した一方、実際に厳格化されたと認識するのは32%に留まり、“望まれる厳格さ”と“現実の制度運用”の間に51ポイントの開きがある。これは、審査の予測可能性と強度の双方を高める改革への幅広い支持を意味する。
国家安全保障と地政学が最重要要因:63%が審査に最も影響する要因として国家安全保障を挙げ、次いで米中関係を中心とする地政学(52%)、AI/バイオ/量子の技術保護(45%)が続く。具体的な取引特性の評価では、防衛用途(49%)と技術移転リスク(51%)が最優先項目となっている。

透明性と予測可能性への懸念:40%が「日本の審査は米国(CFIUS)やEUより透明性が低い」と回答。また70%が「政治・世論の圧力が審査結果に実質的な影響を与える」としており、日本の審査体制が一貫性・透明性の面で改善を求められている状況が浮き彫りとなっている。
米国との安全保障連携を優先:42%が「米国との安全保障連携を優先すべき」と回答し、最大の比率となった。強固な中国関係維持を支持するのはわずか6%。さらに88%が「中国からの投資はより厳しく審査すべき」と回答し、他国を大きく引き離して首位となった。これは、中国中心の経済戦略よりも、米国を軸とした安全保障体制を支持する圧倒的多数の傾向を示している。
センシティブ分野の拡大への強い支持:81%が強化審査の対象となるセンシティブ分野のリスト拡大を支持(「確実に」36%+「ある程度」45%)、現行の適用範囲で十分と考えるのはわずか11%である。 優先分野として挙げられたのは防衛(74%)、ICT/通信(62%)、エネルギー・重要鉱物(59%)、半導体(58%)、医療/バイオテクノロジー(53%)。 AI、バイオテクノロジー、量子技術を含む技術保護(45%)は、政府の意思決定において3番目に影響力のある要素として位置付けられており、半導体、通信、エネルギーシステム、新興技術分野における先進技術およびデュアルユース技術に対する監視強化への強い要望を反映している。
取引関係者への示唆
戦略的重要分野の審査はより厳格化へ:防衛、デュアルユース技術、半導体、航空宇宙、エネルギーインフラ、クラウド/データ資産、先端電子機器の取引では、深いデューデリジェンス、早期段階での規制当局との対話、長期化し得る審査プロセスを見込む必要がある。
投資家の身元・支配構造への精査が一段と強化される:日本の2025年版「外国政府関連投資家分類(Type-A/Type-B)」により、取引規模にかかわらず、出資元(provenance)、支配構造(control structure)、実質所有権(beneficial ownership)への審査が強化される。49%が「買収者の政府との関係性はFDI審査の主要焦点であるべき」と回答しており、投資家の“身元そのもの”が規制リスクとなる時代になっている。
戦略的ナラティブの重要性:技術移転(51%)、供給の安全保障(42%)、対象企業の戦略的・歴史的価値(46%)に関する懸念に対応することが不可欠。技術保持、国内R&D、サプライチェーン強靭化、同盟国との整合性などを示すことで、審査通過の可能性は大きく高まる。
政治・メディア露出の影響は大きい:70%超が「政治・世論が対内直接投資審査の結果に影響する」と回答。反対はわずか6%に留まった。高い注目を集める取引では、ステークホルダー戦略・課題管理・一貫したコミュニケーションが重要になる。
日本市場は依然として大きな機会を提供:構造改革、企業の事業再編、海外投資家の関心増大により、新たな規制環境に適応できる投資家には豊富な機会が広がっている。
メディアの論調
日本のメディアは、経済安全保障と地政学的緊張の文脈で対内M&Aを報じる傾向が強まっている。特に技術流出、重要インフラ、国家の強靭性などが繰り返し取り上げられ、中国関連のリスクは大きく扱われる。一方、ビジネス関連メディアは、記録的な取引件数、企業価値の魅力、構造改革を進める上での外国資本の重要性を指摘し、「日本は依然として投資先として魅力的である」というストーリーを支えている。
主流の論調は対内直接投資に反対するものではなく、条件付き開放である。投資が日本の長期的な能力強化に寄与する場合は歓迎され、戦略的リスクをもたらす場合は精査される。この二重の枠組みは、現在、公共の場で外国企業による買収が評価される上で不可欠な要素となっており、取引関係者が対応すべき環境の一部となっている。
結論
日本が対内直接投資審査制度を洗練させる中、方向性は明確である。経済安全保障が政策の中心に据えられ、対象を選別しリスクに応じて慎重に扱う体制へと移行している。特に、戦略的重要分野や地政学的競合国に関連する投資家に対しては、審査が一段と厳しくなる傾向が鮮明だ。
しかし、これは外国資本への閉鎖を意味しない。技術保持、サプライチェーンの強靭化、日本の経済安全保障への貢献を示せる投資家は、むしろ歓迎され、より大きな機会を得ることができる。取引関係者に求められるのは、積極的な関与、説得力あるナラティブの構築、そして規制環境と日本のステークホルダー動向の深い理解である。











